――――――ターーンターーン




まだ日の昇ったばかりの柔らかな光の中、珍しく早くに眼が覚めた俺は
いつもの学校のコートに見慣れない人影を見つけた。

すごく楽しそうに、舞うような綺麗なフォームで壁打ちをするその姿は
明らかに男の格好をしているのにどこか中性的で、ガラにもなく美しいと思ってしまった。




――――――ヒュッ




何かが前髪をかすめた。
本当に肌すれすれの位置を何か………いや、黄色いテニスボールが綺麗な軌道を描いて通り抜けた。




「―――って青学の制服じゃん!ごめんごめん…変な人かと思ってさ。」




そう言う相手はすまなさそうにこちらに駆けてきた。
近づくにつれて、相手の顔が思った以上に整っていることに気づく。
光に透けると薄く赤い様な光彩を放つ襟足が少し長いショートボブ。
一瞬眼が深緑に見えたのは気のせいだろうが、服装が無ければ女と見紛う位だった。




「お前…ここは青学のテニスコートなんだから青学の奴がいるのが普通だろ?」

「あはは、まぁそう言われちゃえばそうなんだけどねー」




人懐こそうな、それでいて少し困ったような顔で綺麗に笑った。




「でもこんなとこで声もかけずにいるから警戒したんだぞ?」

「いや、得体の知れない奴に声なんかかけずらいだろ;」




実際はフォームに…その姿に見とれていたなんて口が裂けても言えない。
…実際そんな男相手になんて趣味があるとか誤解されてもなんだしな………




「そっかー?俺だったら普通に話しかけるけどなー」

「それはお前に危機感が無いだけだろ;」




………こいつ餌でももらえばそのまま着いて行きそうだな;;
普段人の心配なんかしない俺でもさすがに心配になった…
………こいつだから、なんてことは絶対に無いと思うけど




――――――〜♪




いきなり携帯の着信音が響いた。
自分のではない…ということは相手の物らしい。
慌ててそれを取り出して画面を見た相手はみるみるうちに顔面蒼白になっていく。




「お、おいどうし――「やっべぇ!すっかり時間忘れてたっ、殺される〜!
悪ぃ!お詫びはまた会ったときにするから!」




そう言った相手はラケットをしまい、物凄い勢いで走っていった。




「ちょっ、お前、名前!」




………慌てて叫んだ俺の言葉も全く聞こえないほどに。